ウィキリークスによる米国務省外交公電のリークが後をたたない。情報は毎日リークされているが、25万件ほどのリークのうち、まだ1000件程度しか公開されていないといわれている。
そうした情報の中でも、日本に関するものが3番目に多いといわれ、それらがこれから出てくると、日本の隠された戦後の歴史が明らかになるのではないかと期待されている。
まだ日本に関する情報の公開は行われていない。しかし、ソウルや北京の米国大使館経由で情報の一部がリークされている。そうした情報を見ると、いまの日本がアメリカに実質的にコントロールされている状況がよく見えてくる。それを紹介する。
また、アメリカの外交雑誌、「フォーリン・アフェアーズ」にジャパンハンドラーズと呼ばれる日本操作チームの中心であるジョセフ・ナイの論文、「アメリカンパワーの未来」が掲載された。その内容を少し紹介する。
▼ウィキリークスが明かすアメリカンの日本操作
上記したように、ウィキリークスの日本関連情報はまだ公開されていない。ウィキリークスは、各国にある米大使館が本国の国務省に報告した外交公電のリークである。したがって、どの情報もリーク源は各国の米大使館である。
いまのところ、東京の米大使館経由でリークされた情報は公開されていない。公開はこれからである。しかし、ソウルや北京大使館からのリークで日本に関するものがいくつかある。そうした情報を見て行くと、日本がいかにアメリカにコントロールされているかが具体的に見えてくる。
●カート・キャンベル国務次官補のリーク情報
アメリカには、米国政府の日本に関する政策の立案を専門に行う、通称ジャパンハンドラーズと呼ばれる専門チームが存在する。このチームの存在は秘密でもなんでもない。構成メンバーもすべて公開されている。
リーダーはハーバード大学教授のジョセフ・ナイ、それに元国務副長官のリチャード・アーミテージ、現国務次官補のカート・キャンベル、そして元国家安全保障会議、日本・朝鮮担当部長のマイケル・グリーンなどが中心的なメンバーだ。
これらの人物は、政権が民主党になろうが共和党になろうが、政権とはかかわりなく同じチームとして継続して存在し続ける。ほとんどのメンバーは、ア
メリカ軍や軍需産業と直接関係を持っている。その意味では、彼らは軍産複合体のエージェントといってもよいくらいの人々だ。その証拠に、カート・キャンベルが設立したシンクタンク、「新アメリカ安全保障センター」は軍需産業からの献金で維持されている。
今回、ウィキリークスでは、韓国・ソウルの米国大使館から、2010年2月22日に行われたカート・キャンベル国務次官補と韓国の金国家安全保障担当補佐官との会談の内容を伝える公電がリークされた。さまざまな内容が語られているが、重要なのはおおよそ以下のような内容であった。その中に日本に関する極めて重要な情報があった。
・いま北朝鮮は不安定な状態だ。強行された通貨のデノミが原因だ。北の国民はこれに憤っている。財政担当のパク・ナム・ギは更迭された模様だ。
・北朝鮮の警察が、ピョンヤン発北京行きの列車の座席の下から爆発物を発見した。北の情勢が不安定になっていることがよく分かる。
・米国は、朝鮮戦争で行方不明になった兵士の所在を確認するため、北にコンタクトをとる必要がある。韓国はこれを容認してほしい。
・韓国は北との首脳会談開催の打診をしている。北は首脳会談開催の条件として韓国からの資金援助を要求してきた。韓国はこれを拒否した。韓国は首脳会談を買うようなことは絶対にしない。
・韓国と米国との自由貿易協定は、米国の中間選挙が終わった頃なら議会を通過する可能性がある。李大統領はアメリカ議会で演説したら議会も納得するのではないだろうか。
このような内容の会話が続いたあと、日本の民主党政権について意見が交換される。
・北朝鮮は日本の民主党政権とコンタクトを取ろうとして、いまドアをノックしている状態だ。これに対して、民主党はなんらかの申し出を行ったようだ。民主党はアメリカと韓国と歩調を揃えてもらわなければならない。
・民主党政権は明らかにこれまでの自民党政権とは異なる。金補佐官の意見もこれに一致した。岡田外相や菅財務相のような政権内の主要人物と直接コンタクトを取る必要がある。
●これは何を意味するのか?
元外務省国際情報局長の孫崎氏も詳しく書いているが、これはアメリカが鳩山政権を切り捨て工作に動いた証拠ではないかという。どのようなことが起こったのか、日程を追うとその過程が明らかになってくる。
・2月2日
カート・キャンベル訪日し、小沢氏と会談。普天間基地移設問題が話し合われる。
・2月23日
上述のソウルにおける会談。「民主党政権は明らかに自民党とは異なる」、「岡田外相や菅財務相との直接交渉すべき」との認識が韓国と共有される。
孫崎氏も書いているように、2月2日の会談の後、カート・キャンベルは鳩山政権と小沢幹事長(当時)を切る決定をし、それを韓国に暗に伝えたのではないかと考えられる。そのとき、次の政権の担い手として菅と岡田の両氏を選んだと思われる。
その後、5月21日にクリントン国務長官が来日して20分間の短い会談が鳩山首相と持たれたが、普天間基地の移設問題と鳩山首相の個人献金問題がこじれ、政権は崩壊に向かって一気に進んで行く。6月8日、鳩山首相は辞任を表明した。
次に、小沢氏の排除に向かって進んで行く。
・9月14日
検察審査会が小沢一郎氏の起訴相当の決定を下す。しかし、結果の発表は20日後の10月4日。同じ日に民主党代表選挙が実施され、菅直人氏が首相に就任。
9月14日は民主党の代表選挙の日である。なぜこの日にわざわざ議決を行い、それをなぜ20日もたった10月4日に発表したのだろうか?それは、万が一、小沢氏が民主党の代表戦に勝利した場合、小沢氏を起訴して引きずり落とすためだったのではないかといわれている。
このように、米国が鳩山政権の崩壊を誘導し、次期首相に菅氏を指名した可能性は決して否定できない。もちろん、これが米国の工作であったことを示すは
っきりした証拠はまだないが、これからウィキリークスで東京の米大使館の外交公電が大量に出てくれば、この証拠も手に入ることだろう。
そしていまは、アーミテージ氏が日本を頻繁に訪れ、「米国は次期総理に前原氏を望む」と民主党内のさまざまなグループに向けて発言していることが、退
職した高級官僚のツイッターのリークから明らかになっている。
●尖閣諸島の緊張は米国の戦略の一環
米国の日本操作は鳩山政権の崩壊だけではない。すでにこのメルマガの記事でも何度も解説した、尖閣諸島の中国漁船の拿捕にも米国が関与した可能性が
ある。
・6月8日、「領有権問題は存在しない」と閣議決定
まず、6月8日、政府は尖閣諸島では「領有権問題は存在しない」とする答弁書を閣議決定した。これで、尖閣諸島は日本の領土であることを主張したことになる。なぜこのようなことが唐突に閣議決定されたのか疑問が残る。
・8月16日、「尖閣諸島は安保条約の対象範囲」
さらに8月16日、米国のフィリップ・クローリー国務次官補は記者会見で、日米安保条約が尖閣諸島に適用されるかと問われれば、そうだ」と述べ、尖閣諸島で衝突が起こった場合、米国が守るとの立場を強調した。
・8月19日、日米軍事演習実施発表
尖閣諸島に近い南西諸島で12月に史上最大の日米合同軍事演習、「キーンソード」と「キーンエッジ」の実施を発表。「敵に占拠された島」の奪還作戦が含まれている。
・9月7日、日中合意の破棄、中国漁船の衝突と拿捕
9月7日、尖閣諸島で操業中の中国漁船が海上保安庁の巡視艇に衝突。日本は漁船を拿捕し、船長を逮捕。以前の記事でも詳しく解説したが、尖閣諸島では日中両国が合意した紛争回避のメカニズムが存在していた。
一つは、自国の国内法を適用しないことを定めた78年の尖閣諸島領有権棚上合意であり、次は日中両国が自国の漁船のみを取り締まることを定めた2000年の日中漁業協定である。この2つの合意によって、尖閣諸島で領海侵犯があっても中国漁船は即刻本国に送り返すこととし、領有権をめぐる衝突は回避するとした合意であった。
しかし、今回の衝突では、日本はこの2つの合意を適用せず、緊張を高める方向に動いた。合意の破棄は、海上保安庁を監督する立場にいる国交大臣の前原氏の指示ではないかといわれている。海上保安庁の判断だけでは日中間の合意を破棄することはできない。
・12月3日、日米軍事演習「キーンソード」開始
日米軍事演習「キーンソード」と「キーンエッジ」が12月3日から13日の日程で始まる。米軍はこれが中国を対象したものではないというが、中国は態度を硬化。
・12月4日から8日、武器輸出三原則見直し論議
政府内部で、日本に武器輸出を禁止している武器輸出三原則の見直しを検討。今回は見送られたが、タブーとされてきた武器輸出三原則が見直しの対象となったことが大きい。将来は破棄される可能性が大きい。
・12月9日、米国、日本に米韓軍事演習参加要請
マレン米国統合参謀本部議長が来日し、日本に米韓軍事演習への参加を再三要請。尖閣諸島のような日本の領土とは異なり、朝鮮半島で戦争が勃発した場合、憲法上の制約から、日本はあくまで後方支援に徹することになっていた。1950年代の朝鮮戦争や60年代のベトナム戦争ではそうであった。日本が海外に戦闘部隊を派遣するようなこと絶対になかった。
今回米国は、北朝鮮の脅威に対抗するための米韓軍事演習に日本に参加を要請することで、朝鮮戦争が勃発した場合、自衛隊が米韓軍と一体となって戦闘することに道をつけようとしていることは明らかだ。
いまアメリカは、中国が北朝鮮の問題で十分に協力していないとして中国を非難している。これは、中国を挑発し、近い将来、日米韓合同軍と中国軍が極東で軍事的に対峙する状況を作る計画だと思われる。
●何が見えるか、北朝鮮の挑発の手口を同じ
さて、起こった出来事を時系列に並べて行くと、米国が鳩山政権を崩壊に追い込み、小沢一郎を権力の座から引きずり落とすと同じ手口が使われていることが見えてくる。
まず、唐突に「領土問題は存在しない」と尖閣諸島の領有権を主張させ、その後、日中の間に存在していた紛争回避の合意を日本側から一方的に破棄させ、中国漁船を拿捕した。
そして、日本国内の反中国ナショナリズムと日中間の緊張が高まったところで、武器輸出三原則の見直しを行わせ、また、米韓合同軍事演習に日本を引き入れ、将来的に自衛隊を戦闘部隊として朝鮮戦争や中国との紛争に動員する方向に無理矢理もって行くつもりだろう。
上の一連の出来事は偶然にさまざまな出来事が重なったというわけではまったくない。緊張が高まるように事前に準備をし(閣議決定と日中合意の破棄)、相手を挑発して問題を引き起こし(中国漁船の拿捕)、そこで高まった緊張を口実にして米国のやりたいことを無理矢理押し通す(自衛隊の米韓軍参加)という手口だ。
これは、前回の記事で書いた北朝鮮の挑発と同じやり方だ。韓国と米軍は、北の再三の中止要請にもかかわらず、「ホグック2010」の最大級の米韓軍事演習を延坪島付近で実施し(事前準備)、さらに、演習とは関係ないという名目で、北朝鮮に向けて射撃訓練を実施した(問題を引き起こして挑発)。北はこれを韓国の攻撃と判断し、延坪島を攻撃した。米国と韓国は北の攻撃を口実に、黄海で大規模な軍事演習を実施し、中国が抵抗していた原子力空母、ジョージワシントンを黄海に展開した(米国の計画実現)。
●自衛隊を戦闘部隊としてアメリカが使う
尖閣諸島と北朝鮮の挑発でアメリカが何を意図しているかは明確である。再度いうが、日本の自衛隊を戦闘部隊として米韓軍に統合し、朝鮮戦争や中国との紛争で戦う実戦部隊として使用することが目的である。
先の軍事演習「ホグック2010」では、米軍は急遽参加を中止している。それを考えると、日米韓合同軍といっても、実際に戦闘が始まると米軍は参加せず、日韓軍が戦闘を行い、米軍は指揮と命令だけを担当するということにもなりかねない。
すでに2005年に締結された日米安保に代る条約、「日米同盟:未来のための変革と再編」では、自衛隊は米軍と一体化し、世界の紛争地域に出動することになっている。今回は、尖閣諸島と朝鮮半島で緊張を実際に高め、自衛隊の戦闘部隊としての動員を行うということだろう。
この方向は、自衛隊がアメリカの戦略にしたがって行動し、アメリカの国益を守るために戦うという実に従属的な方向に道を開く。鳩山政権や小沢一郎、そして鈴木宗男などの人々は、アメリカとの距離を取ることを主張し、日本の独立を守ることを強く主張した政治家であった。だからこそ排除されたのだろう。
そして、日本国民はマスコミの扇動に乗せられ、これらの政治家を自らの手で葬ってしまった。
●これから起こること
さて、このように見て行くとこれからどのようなことが起こるのかある程度予想ができる。それは以下の2つだと思われる。
1)自衛隊の朝鮮半島における米韓軍事演習参加
2)朝鮮半島と尖閣諸島で緊張がさらに高まる
自衛隊の米韓軍事演習参加が決まったら、朝鮮半島と尖閣諸島で緊張をさらに高め、自衛隊を戦闘部隊として実践配備するか、戦闘に参加させる。
または、日本政府が自衛隊の米韓軍事演習参加を渋っているようであれば、朝鮮半島と尖閣諸島で緊張を先に高め、自衛隊が参加せざるを得ない状況に追い込んで行くということだ。
▼ではアメリカの目的はなにか?
このように見ると、大きな疑問が出てくる。それは、アメリカの目的は何であるのかということだ。
この目的がはっきりと分かる論文が先頃発表された。それは、フォーリン・アフェアーズ誌に掲載されたジョセフ・ナイの論文「アメリカンパワーの未来」だ。
フォーリン・アフェアーズ誌は、アメリカ政治の奥の院ともうわさされている外交問題評議会が発行している雑誌である。現職の閣僚やアメリカ政府のブレーンが寄稿するため、アメリカ政府の方針と政策を知ることができる雑誌として有名である。
執筆者のジョセフ・ナイはジャパンハンドラーズのリーダーのみならず、オバマ政権の外交問題アドバイザーも努める政権のブレーンでもある。この論文で、まさにオバマ政権が何を考えているのか分かる。
●論文「アメリカンパワーの未来」の内容
この論文は長いので、ここで必要な内容だけを簡単に要約する。以下である。
「アメリカは今後停滞し、凋落するとの論評がアメリカ内外でよく聞かれるようになった。アメリカの時代は終わったというのである。そして、中国のような新興国に覇権は移るというのである。
しかし、この考えは馬鹿げている。現実を認識していない皮相な考えだ。
国のパワーを考える場合、それは政治、軍事、経済の三つの次元で考えることが重要だ。政治ではアメリカは将来も覇権的な力であり得る。これに挑戦するのは、国家というよりもテロリストなどの国際的な集団だろう。そして軍事力ではアメリカは世界最強の軍事国家として君臨し続ける。だが経済では明らかにアジアに中心が移るので、アメリカは多極的な世界の一翼を担うことになるだろう。
このように見ると、経済の多極化をある程度受け入れながらも、アメリカは将来もずっと覇権国として存在するはずだ。
確かに中国に覇権が移るとの議論も多い。しかしこれはまったくのナンセンスだ。中国はどれほど経済成長しようとも、その軍事力と経済力がアメリカの
覇権を脅かすほどにまで大きくなることはまずない。それにははるかに時間がかかるが、中国はそれを達成する前に政変を経験し、発展は減速することだろ
う。
はっきりいって、中国はアメリカの脅威ではないし、今後も脅威とはなり得ない。将来、アメリカの覇権を脅かす勢力が出てくるとすれば、それは日中韓の東アジア共同体だけである。この3国が共同体を形成してしまうと、アメリカをはるかに上回る力を持つことになる」
このように、実はアメリカがもっとも強く警戒し、脅威に感じていたのは、鳩山政権が提起したような、日中韓の東アジア共同体だったのである。
すると、今回のアメリカの動きは、日中韓が同盟で結び付かないように、東アジアの緊張を最大限高め、日米韓合同軍と、中国軍や北朝鮮軍が一触即発ぎりぎりのところで対峙する状況を形成することだろう。
このような状況を作り、アメリカは東アジアを管理したいのだ。
このまま行くと、日本では中国を脅威と考える反中ナショナリズムによって、アメリカの計画に埋め込まれ、そのようにコントロールされてしまうだろう。
おそらくいまわれわれはぎりぎりのところにいる。だが、いま気が付くとぎりぎりで間に合うだろう。アメリカの国益を守るために、日本人が同じアジア人と殺し合うようなあまりに馬鹿げた状況だけは回避しなければならない!